「画竜点睛を欠く」我が国の
「エネルギー基本計画」
釈迦に説法だが「画竜点睛を欠く」とは、
物事をりっぱに完成させるための最後の仕上げを忘れること。
また、全体を引き立たせる最も肝心なところが抜けていること。
「仏作って魂入れず」ともいう。
そうです、第5次「エネルギー基本計画」には
肝心なところが抜けているのです。
どこが「欠けている」かは・・・・・・・・・・
次期「エネルギー基本計画」は再生可能エネルギーを主力電源にすることが決まっている。
主力電源にするための課題を、経産省は「再エネを将来の主力電源にするための政策課題」として発表している。
その政策課題を見ると、「画竜点睛を欠く」すなわち「最も肝心なところが抜けている」計画であることが分かった。
どこが欠けているかを説明する前に、経産省が発表した次期「エネルギー基本計画」の政策課題を簡単に説明する。
詳しく知りたい方は「再エネを将来の主力電源にする」ための政策課題 を読んでください。
「再エネを将来の主力電源にする」ための政策課題(骨子)どこが「欠けている」のか?
経産省作成の政策課題に流れている思想は、「発電コストは下がり続けており今後もさらに下がり続ける。下がったことで再エネの導入は拡大し続け、拡大による系統増設費用・FIT国民負担・出力抑制費用・出力変動調整費用などが増えるので、そのコストも抑えなければならない」と言うもので、「拡大し続ける」ことを前提としている。
それに対して弊社の反論は、「本当に導入は拡大し続ける」のか? 「もう拡大は止まった」のではないか?という事だ。
何故、拡大は止まるか?
太陽光の導入拡大が進むと、出力抑制も拡大する。出力抑制が拡大すると投資の回収が困難となり、発電事業に魅力が無くなる。その時導入拡大は止まる。
拡大し続けるためには、「出力抑制完全解消」が必要不可欠になるが、政策課題の中に、「出力制御の最小化」とは掲げてはいるが「完全解消」とは言ってはいない。完全解消が無ければ主力電源化は夢のまた夢になる。そうなれば「第5次エネルギー基本計画」は完璧に失政となる。
まさに、画竜点睛を欠いた「第5次エネルギー基本計画」である。
技術大国日本と世界中から認定されているが、この第5次エネルギー計画以降はこの認定もガタ落ちに落ちまくるだろう。世界中から「再エネ拡大すらできない技術力の乏しい国」といわれるのは間違いない。
弊社の持論である「出力抑制対策(需要超過分の有効活用策)が最重要」の理由を、次に説明する。
①太陽光発電は上へ上へと延びる(タケノコシンドローム)
太陽光発電の導入拡大に合わせて、南中時の発電量が上へ上へと延びる、決して横には広がらない。まるでタケノコのようである。上へ上へと延びる太陽光の特性は風力やバイオなどの再エネにはない太陽光だけの特性である。上へ延びると閑散期の需要もピーク期の需要も簡単に超過してしまう。
太陽光導入拡大を狙うという事は、需要超過量が増えるという事で、この超過分を抑制するのではなく、徹底的に有効活用する技術(超過分の有効活用)がなければ、いたずらに出力抑制を増やすだけに陥る。太陽光の占める率が極めて多い我が国のエネルギー対策としては特に重要である。
出力抑制解消を完全に無視した「画竜点睛を欠く」エネルギー基本計画である。
②一日24時間の需要を太陽光だけで満たすには、
南中時需要の3倍以上の太陽光発電が必要である。
太陽光発電だけで一日の分の電力需要を賄うとした場合、太陽光は夜間は発電出来ないので昼間の内に夜の分も発電しておかなければならない。一日分の電力需要量と一日の太陽光の発電量を一致させると図1のようになる。
図1で太陽光の南中時の発電量は、同時刻の電力需要の3倍となる。この3倍は晴天日の場合であるので、曇りの日とか雨の日を考慮に入れると、4倍か5倍が必要になる。ここで言いたいことは、再エネ化率を高めたいのなら、需要超過分むを受け入れる仕組みや機器が必要であり、出力抑制の技術しかない国では再エネ化率は高められない。
需要超過分を受け入れる仕組(超過分の有効活用する仕組み)を全く考えていない、まさに「画竜点睛を欠く」エネルギー基本計画である。オソマツ。
(図1)
③需要超過分を捨てることは、
一日の発電量の60パーセントを捨てる事になる。
図1で太陽光の一日の発電量は65,708MWhあるが、発電量が需要曲線(青線)超過している部分は33,554MWhである。51パーセントが超過している。超過部分は捨ててしまうので、再エネ化率は49パーセントにしかならない。
しかし、現在各電力会社が実行している抑制方法は、南中時の発電量がその時の需要を超えない発電所を決め、それ以外の発電所は午前8時から17時直前まで発電中止としている。 抑制された状態での発電は図1の棒グラフで表示している。棒グラフの発電合計は26,732MWhで、再エネ化率は40パーセントにしかならない。60パーセントは捨ててしまうことになる。
エネルギー基本計画では「発電コストの低減化」を大目標として掲げているが、発電量の60パーセントも捨ててしまうようでは、コスト低減化が達成できるとは思えない。
コスト低減化を掲げておきながら出力抑制解消策、超過分の有効活用策を何ら考えていない計画は、「最も肝心なところが抜けている」計画としか言えない。バカバカシイ。
④太陽発電コストが原発コストより安くなるのは時間の問題。
原発が稼働開始すると、その分、出力抑制が増える
図1で原発が毎時1GW分稼働し始めると、出力抑制されて稼働している太陽光の発電量は19,172MWhとなり、71パーセント捨てられることになる。その時の再エネ化率は29パーセントにしかならない。(図2)
「重要なベースロード電源」と位置付けた原子力発電であるが、世界的には建設コストと運用コストも高くなりつつある一方、太陽光は下がっており、原発より安くなるのは時間の問題である。
太陽光発電コストが原発より安くなっていても、原発が稼働するとき、原発より安い太陽光を抑制するのか?矛盾した政策である。
(図2)
エネルギー長期計画では原発を「長期的なエネルギ ー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付けている。ベースロード電源になるための条件は、安定性が絶対条件だがコストの安さも必要である。現時点では、コストが一番安いとなっているが数年後には太陽光が一番安くなるとエネルギー基本計画自身が予想している。
再エネを主力電源にすると宣言するのであれば、原発再稼働の時は、少なくとも、原発と太陽光が共存出来る仕組みを先に作ってから再稼働すべきだ。
原発再稼働で太陽光の抑制が増えるようだと原発反対は益々強くなるだろう。共存が可能となれば反対運動は少し弱くなるのではないか?
しかし、基本計画では共存させることは一切考慮に入れられていない。
「画竜点睛を欠いた」エネルギー基本計画である。カナシイ。
⑤「徹底した省エネルギー政策」が太陽を沈めてしまう。
第5次エネルギー基本計画では、最初に「徹底した省エネルギー社会の実現 」を唱っている。
実現の目標値は2030年頃までに、2010年エネルギー消費の35パーセント削減としている。
全てのエネルギーが対象となるが、電気の消費も35パーセント削減すると、一日当たりの消費量も35パーセント削減と考えざるを得ない。
そこで、東京電力の冬ピークの需要曲線が、省エネルギーの結果どのように変化するか予想してみる。
一日の需要曲線を見る(図3)と電気の使用量が多い時間と少ない時間がある。
省エネの効果は、使用量の多い時間には多く、少ない時間には少ないと考えるべきであろう。一日当たりの省エネ効果が、目標の効果に等しくなるように時間ごとに効率を設定した。図3はピーク日の需要曲線に対して改善効率を適応した。改善率の最大の時間は12時で、改善率は40パーセントで、一日当たりの改善は32パーセントとなった。
改善量は1,798万kWhである。この1,798万kWh減少したことで出力抑制が激増することになる。
図2の原発再稼働の後に更に電力需要が35パーセント減少した場合、太陽光の発電量は7,913万kWhにしかならない。その時の再エネ化率は19パーセントにしかならない。
先日閣議決定した同基本計画で、2030年の再エネ化率は22~24パーセントとなっていることに対して、町の評価は「低すぎる」と悪評だらけだが、弊社の上記計算値19パーセントに太陽光以外を含めると22~24パーセントとは大差がないと思っている。
要は、出力抑制を改善せずに拡大しても、その程度の再エネ化率にしかならないという事である。
(図3)
詳細 ⇒⇒ 「省エネルギー政策」が出力抑制を拡大する
東京電力の発電実績から想定東京電力の2017年の発電実績に対して、受付分の再エネ全てが稼働、原発が再稼働して毎時1,200万kWhの発電を行う、35パーセントの省エネが行われた需要曲線を適応する電力需要が膨大のため出力抑制は発生しないと思われている東京電力でも、雨天以外の 殆どの日に出力抑制となる。
(図4)詳細については、
東京電力供給域の太陽光発電には出力抑制はあり得ない・・・って本当?
に記述してます。参照ください。
(図4)
省エネルギーを推進することと、再エネを主力電源にすることは、完全に矛盾した政策と なる。再エネを推進するなら、事前に需要超過分を有効活用できる技術を導入する必要がある。
今回の「エネルギー基本計画」には省エネを強烈に推進するとあるが、需要超過の有効活用技術の開発導入は全く記述されていない。まさに「画竜点睛を欠く」エネルギー基本計画である。ナサケナイ。
抑制技術は自慢にならない、世界が求めているのは需要超過分を有効利用する技術だ。
⑥系統制約の克服は悲劇を拡大するだけだ。
系統容量が足りないため接続できない。その問題を改善するため、既設送電線の運用変更で接続可能量拡大するとしている。
東北電力は、「N-1電制」の適用を7月2日から開始した。
「N-1電制」は、送電線の最大容量(2回線分)を上限に、送電線への電源接続を認める一方、送電線の事故が発生した場合には、1回線分の容量まで電源を制限することで、既設の送電設備を最大限活用しながら電源の接続可能量を拡大する仕組みをいう。
「N-1電制」の適用により接続拒否されていたものが接続可能となる。
果たして、太陽光発電業者はこの適応を喜んで良いのだろうか?
東北電力の現在の稼働状況をみるとまだ出力抑制は発生していない。しかし、認定受付しているものすべてが稼働開始すると、出力抑制が頻発する危険な状態になる。
詳細 ⇒⇒ 東北地区も出力抑制が頻発し始める
「N-1電制」の適用により接続量は増えるが、増えた分だけ出力抑制が早まる。
「N-1電制」の適用により全希望者が接続可能になった後は、発電量が極端に増加して出力抑制が頻発することになる。抑制の結果、投資の回収は不可能となり、発電業者の倒産という悲劇が多発することになる。
接続拒否と出力抑制の違いは、前者は発電事業の計画段階で発生するが、後者は導入後に発生する。計画段階ではまだお金が動いていないが、導入後はすでに借金も抱えたし、人も採用している。悲劇になるのは後者であって前者は大きな悲劇にはならない。むしろ、事前に接続をお断りしてやるほうが親切と言えるのではないだろうか?
一般電気業者(電力会社) が「空き容量不足」と言うのは、導入後の出力抑制を考えて一般の方が理解し易い言葉「空き容量不足」と言っているのである。「出力抑制」は一般の方には非常に理解しがたい言葉である。
東北電力が全域で空き容量ゼロと言っているのは、出力抑制発生の危険性を未然に防ぐため の方便であったと解釈している。「空き容量ゼロ」への対策を考える前に「出力抑制防止対策」と需要超過の有効活用技術の開発と導入を先に、又は、併せて考え、発表すべきであると、弊社は主張する。まさに「画竜点睛を欠く」エネルギー基本計画である。カナシイ。
(編集後記)
この文章を記述する前は、優秀な人材を抱えている経産省やそれを取り巻く経験豊かな有識者たちでも、出力抑制という重要なことに「気づかなかった」と、編集者は思い込んでいた。
しかし、編集が終わった時、「気づかなかった」のではなく「あえて避けていた」のではないかと思えようになった。
何故「避けた」か?
避けた理由は、「出力抑制完全解消」して「需要超過分の有効活用」が出来てしまうと、太陽光だけで再エネ化率100パーセントが出来る。そうなると、原発不要となってしまう。原発不要となると原発推進を進めていた安倍首相をはじめ現政権の失政が大きく問われることになる。それを避けるために、それを忖度してあえて「出力抑制解消」を外したのではないか?
忖度や改竄の技術で凌いでいるお役人ならやりかねない。
詳細 ⇒⇒ オソマツな出力抑制解消システム
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